はじめに
競馬を知る前は、競走馬と言うものはみんな「走る気満々で、毎回目を血走らせているものだ」と思い込んでいました。
でも馬の中にはブチコのように、出走前のゲートで暴れてしまう「走るのが苦手な子」がいます。
ダンビュライトのように「テンションがあがりすぎてしまって騎手を振り落とす」タイプの子もいます。
馬も人と同じで、いろんな性格の子がいると分かって面白いんですよ。
今回は馬が重賞に向けていろいろ訓練をする「調教コース」について説明しましょう。
キックバックとはいわゆる砂のはねあげのことです。
練習中に砂がかかると、怒る馬ややる気がそがれる馬もいます。
そうしたキックバックが起きにくいのが「オールウェザー」というコースなんです。
坂路
坂路と書いて「はんろ」と読みます。いわゆる坂道のコースで、1985年、滋賀県栗東トレーニングセンターだけ(略して栗東トレセン)に導入されました。
その後関東の馬よりも、関西の馬(関西馬、かんさいばと読む)の方が成績が良くなるのですが、坂路でのきついトレーニングのおかげらしいと分かります。
関東美浦(みほ)トレーニングセンターにも現在導入されていますが、関西馬が強いという「西高東低」の流れはいまだに続いています。
ダート
砂をしいたコースで、芝よりも柔らかい路盤が特徴です。そのため一本一本の脚でしっかり踏ん張って走るのでパワーアップコースとしても使われます。
なぜ柔らかい路盤が選ばれるかと言うと、脚のケガを防止するためです。
サラブレッドは400キロから500キロ近い体をあの細い脚で支えているため、脚を痛めることがあります。
調教中にも事故が起きることがありますが、脚を骨折した場合は助けることができません。
なぜなら、走ったり歩いたりすることで全身に血液を巡らせていること、これまでずっと4本の脚で立って暮らしてきた生き物ですから横になって静養できないんですね。
これまで骨折の治療がされたこともあるようですが、やはり治しきることができませんでした。
芝
新馬戦の前や、本番用のトレーニングとして走るコースです。芝のコースは芝が根を横にはるので固くなりやすくなります。
競馬場ではシャタリングマシンを使って地面に穴をたくさんあけ、柔らかくしてスピードが出すぎないよう調整します。
きっとあなたは「スピードが出すぎると悪いの?」と思うでしょう。
アスファルトのような固い路面を走るとき、柔らかい地面とくらべてスピードは出ますが足首や関節に負担がかかっている感じがしませんか?
馬の脚は人間でいうと4本の中指1本ずつで支えているので、人間よりも繊細な動物です。
競走馬は普通の馬と違って、誕生前からお金もかけられていますし、馬主の熱い思いをしょってそこにいます。
馬が脚をケガすることは命にかかわることですので、調教師たちもより神経質になるのです。
ウッドチップ(CW)
ダートコースの上にウッドチップを敷き詰めたコースで、ダートコースよりもさらに足元への負担が減ります。競馬新聞ではウッドチップということでWCと表記します。
砂場を思い浮かべていただきたいのですが、砂に水を含ませれば固くなって持ちやすくなりますよね。
ダートコースも同じで、水を吸えばすうほど重馬場となって足元がしっかりどっしりしますので、スピードが出やすくなります。
(なお、大雨になると水たまりができてドロンドロンに…)
その反面、馬の脚にかかる負担は増えるので、その対策として砕いた木片を敷いて路面の柔らかさを保とうしています。
ニューポリトラック
関東の美浦トレセン、関西の栗東トレセン内にあるトラックコースで採用されていて、オールウェザー(どんな天候でも馬場の質が一定)とも呼ばれます。
路面に透水シートを敷いて、その上にケーブルや電線の被覆材、ポリエステルやポリウレタンの繊維とワックスを混ぜた素材を敷き詰めてあるのが特徴。
↓屋外用の透水シートというと、こんな感じでしょうか。
ニューポリトラックに使われている素材を見ると、「なんだかゴミのリサイクル品?」と勘繰ってしまいますが…
実際は細かくして土に混ぜておくので、遠目でみると素材が混ぜ込まれていることはわからないレベルです。
馬にとっては雨が降っても状態が悪くなりませんし、馬が蹴り上げた土や芝が飛ぶキックバックも起きにくい馬場です。
私たちだって、歩いていて砂埃を立てられたり、歩いているときに水しぶきをわざとかけられたら腹が立ちませんか。
特に競馬では、みんな勝つために気が立っていますから、キックバックしたものが顔にかかったら嫌ですからね。
また、乾燥した時に出やすいほこりも無く、散水の手間もないということで競馬関係者にとってもグッドな馬場と言えます。
プール
「え、馬も犬かきするの?」と思われたかもしれませんね。
プールに入ると水圧で全身が圧迫されるので、心肺機能が高まることはご存じでしょう。
また、水中では浮きますから、関節を痛めている人がフィットネスとして水泳を行っていることも有名です。
馬にとって心肺機能を高めることは大事ですが、まさか山に登らせて酸素濃度を高める訓練はできません。
プールを利用することで、脚の負担を減らしながら水中で歩いたりして体力を養います。
ちなみに馬場で「時計を出す」つまり本番に向けてしっかり走らせるときはプール調教をしないとのことです。
馬にとっても水中でのトレーニングは体力を消耗しますから、全力をだして練習する日にはメニューに入れないのでしょう。
※トレセンでもいきなりプールに入れるのではなく、馴致(じゅんち)用でならしてから円形・直線プールへと入れるようです。
まとめ
馬がレース前に走るのは主に芝とダート(砂)のコースですが、天候によってはウッドチップを敷き詰めたWCコース(CWコース)やニューポリトラックと多彩なコースが。
「スピードが出ることほど大事」と素人は考えがちですが、スピードが出れば出るほどけがをしやすくなるので馬場の状態にはみな神経を配っていることがわかりました。
ただ練習すればいいというわけでなく、馬の健康状態や砂をかぶって戦意喪失しないか、気が立たないかということにも注意しながらトレーニング場を選んでいるんですね。
馬の足元をいたわるためにプールでの訓練もあり、レースまでに緻密なトレーニングが組まれていることがわかりました。